自然と生き物に向けられた温かい眼差しと好奇心、ユーモア。
開高健は優れた小説家であるとともに、それまでの日本作家に類例のない旅行家、ノンフィクション作家でもあった。
釣り竿を片手に原生林の中へと喜んで分け入り、生命の驚異を味わい、それらの描写に力を注いだ。遺された幅広い作品群の中から、動物、魚類、虫類、植物などに関する名描写を選りすぐり、分類し、奥本大三郎の解題を付した、開高健版『イストワール・ナチュレル』ともいうべき一冊。
小説、エッセイ、釣りの本などから、魚、動物、鳥、虫、植物、石・・・に関する文章表現を集めた一冊。
はじめて読む方にもオススメです。
ハイビスカス
タイル張りの床いっぱいに散らかった新聞紙、本、酒瓶をかきわけてズボンをはき、シャツを着る。
窓のそとには小さな庭があり、ひっそりとした黄昏のなかでハイビスカスの花が赤い巨大な蝶のように見える。
イトウ
蒼古たる神居の時代、水辺をさまようアイヌ人たちは、とろりとした渦を起こしてゆうゆうと泳ぐ巨怪を観察して、その体にふさわしい伝説を創ってやったのである。
それはあのドイツのほら吹き男爵の一篇に匹敵するほどの広大なものであって、あるときイトウが牡鹿を丸呑みしたところ、角が腹をつきやぶってしまった。
そこでイトウは死んでしまい、死体が川を流れた。
その死体が川の水をせきとめることとなり、ために洪水が起こった、というのである。
いや、みごとな想像力。
さすが後年、少年ヨ、大志ヲ抱ケという言葉を吐いたお国柄である。
万事こうでないといけない。
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